東京地方裁判所 昭和24年(ワ)4814号 判決
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(事實)
原告會社は「その從業員の福利施設として建設した約六十戸の内の一戸を從業員であつた被告に原告會社を退職することを解除條件として賃貸していたところ、被告が退職したので賃貸借は終了した。仮りに當然終了しないとしても、原告會社の從業員で住宅に困つている者が多數あり、原告會社はこれらの者を居住させるために本件家屋を使用する必要があるので被告に對して解約の申入をした。從つて賃貸借はこれにより終了した。」と主張して家屋の明渡を求めた。
企業體が從業員に家屋を賃貸する場合に(一)賃借人の退職を解除條件とすることは借家法第七條に反しないか、(二)反しないとすれば明示の特約のない場合も賃借人の退職を解除條件とするものと解すべきか、(三)賃借人の退職により賃貸借が當然終了しないとすれば賃借人の退職は解約申入の正當事由となるか、(四)企業體がすでに事業を止め家屋を他に賣却しようとする場合もなお正當事由となるか等が一應問題となる。本件においては裁判所は退職を解除條件とする約束のあつたことは認められないから賃貸借は被告の退職により當然終了するものではないとしたが、結局解約申入につき正當事由ありと認めて原告の請求を認容した。なお、本件と同じ原告が本件と同じような理由で家屋の明渡を求めた事件で、右(二)につき當然退職を解除條件とするものと解し、右(一)につき借家法の適用なしとした判決があるから參考として本件の次に掲げる。
(理由)
判示事項一「原告會社は昭和十六年頃住宅がたやすく手に入らなくて困つていた從業員のため株式會社日本興業銀行から低利で金融を受け從業員の住宅向の家屋六十戸を建設しこれに從業員を居住せしめたのであつて、本件家屋もその六十戸のうちの一戸であることを認めることが出來るが原告會社の從業員たる身分を喪失するときは右賃貸借契約を終了せしめる旨の解除條件附のものであることはこれを明認するに足る證據がなく、證人伊藤俊一の證言によれば右六十戸のうちにはこれに居住した從業員に對しこれを代金分割拂の方法で讓渡する契約をしたものもあることが認められ、この事實に徴すれば右六十戸は當時住居に困つていた原告會社の從業員の爲に原告會社がその住宅を提供したものであるが、原告會社の社宅として從業員に限り居住せしめ從業員の身分を喪失したときは直ちに明渡されねばならないという程はつきりした約束があつたとは思われない。」
判示事項二「賃貸人が一つの企業體であつてその從業員の身分をもつていた者に對しその住宅用として家屋を賃貸したが、後に賃借人が從業員たる身分を喪失した後もなお移轉せず、その間すでに三年餘りも過ぎている一方、住宅がないために企業運營上必要とする從業員に住宅を提供することができないでいるような場合には解約の申入をするについて正當の事由がある。」